演奏会が終わったあと、私は彼の姿を探して感謝を伝えた。


「本当にありがとうございました。すごく助かりました。あなたがいなかったら、きっと最後まで弾けなかったと思います」

「別に、あんたのためにやったわけじゃないよ。ガキたちがぎゃあぎゃあ騒ぎ出すとうるさいからさ」


雪夜くんはなんでもなさそうにひらひらと手を振り、去っていった。

でも、それが彼の優しさなのだと私には分かった。


近くにいた女の子に彼の名前を教えてもらい、『雪夜』という名前は私の心に強く刻まれた。


それから数週間後、再びしらとり園にピアノを弾きに行った。

クリスマスコンサートということで、施設の中は色とりどりに飾られていた。


クリスマスソングを弾いて数曲目のときに、子供たちが私に「また雪夜お兄ちゃんと一緒にやって」と言い始めたので、二回目の共演をすることになった。

彼は「またかよ」と気乗りしないような表情をしていたけれど、子供たちにせがまれると「仕方ないな」とため息をつきながら前にやってきた。


その日、初めて雪夜くんの歌を聴いて受けた衝撃は、今でもはっきりと思い出せる。


今まで聴いたことがないくらいよく通る綺麗な声で、とても、とても優しかった。


彼と一緒に弾くのは本当に楽しくて、わくわくして、私たちはその日、子供たちに頼まれるままに十曲近く一緒に演奏した。


帰り際、施設のスタッフの人に声をかけられた。

「子供たちが雪夜とのセッションをすごく喜んでたから、よければこれからも、たまにピアノを弾きに来てくれない?」