私たちが初めて出会ったのは、二年前の冬の始めだった。


雪夜くんが暮らしていたしらとり園でのピアノ演奏会。


ちゃんと練習していったつもりだったのに、私は大失敗をしてしまった。

教室の発表会とは全く違う雰囲気の中で緊張しすぎてしまい、弾いている途中に頭が真っ白になって、手が止まってしまったのだ。


一度止まると、なかなか元には戻れなくて、次の音符を弾く指が震えた。

子供たちが「どうしたの?」、「続きは?」と声をかけてきて、さらに焦ってパニックになった。


そのとき、「俺も飛び入り参加しようかな」と言って観客の中から一人の男の子が立ち上がった。

それが雪夜くんだった。


彼が古びたアコースティックギターを持ってピアノの横に立つと、子供たちは嬉しそうにはしゃぎ出して、張りつめていた空気が一気に和らいだ。


「俺も一緒に弾いていい?」


私は慌てて頷いた。


「でも、この曲、知ってるんですか?」


私が弾いていたのは、一般にはほとんど知られていないクラシック曲だった。

でも彼は飄々とした様子で言った。


「知らないけど、まあ、なんとかなるだろ。今、途中まで聴いたし、だいたいで合わせるよ」


彼はアコギを抱えて床に座り込んだ。


奏でられた音は、一度聴いただけだというのに、ちゃんとピアノの和音と同じで、それに驚いた私はすっかり緊張がどこかへいってしまった。

それで、彼の音に合わせて最後まで、間違わずに弾くことができたのだった。