雪夜くんの目が大きく見開かれる。

それから苦しそうに呻き声を洩らした。


「馬鹿……っ!」


こんなに取り乱した彼の姿を見るのは初めて――いや、二回目だ。


「なんで、こんなもん、後生大事にとってんだよ! 捨てろよ……」


雪夜くんがノートの切れ端を私の手から引ったくるように奪い取り、くしゃりと握りつぶした。


「こんなん、ただのゴミだろ……捨てればよかったのに。そしたら、思い出したりなんかしなかったのに……」


私はそれを彼の手から抜き取り、丁寧に引き伸ばしていく。


「……捨てるなんて、そんなこと、できるわけないよ」


唇に自然と笑みが浮かんだ。


「だって、雪夜くんが私にくれたものは、全部、宝物だから……。どんな小さなものでも、大事な……」


捨てられるわけがなかった。


雪夜くんが子供たちと一緒に作って、何気なく私にくれた折り紙。

私が指を怪我したときに、照れくさそうな顔をして無言で差し出してくれた絆創膏。

一緒に買い物をしていたときに見つけて眺めていたら、後からこっそりと買って渡してくれたペンケース。

去年のクリスマスにプレゼントしてくれた銀色のネックレス。

二人で一緒に作った曲のコードを雪夜くんが走り書きした、ノートの切れ端。

雪夜くんがギターを弾いている横で『それ、きれいな色だね』と言ったら、『そんなに気に入ったならやるよ』と笑ってくれた、涙の雫のピック。


いくつもの宝物についての思い出が、全部、色鮮やかに甦ってきた。