「お父さん」

「えっ、美冬?」


駅の改札から出てきたお父さんに駆け寄って声をかけると、お父さんは驚いた顔で振り向いた。


「待ってたのか?」

「うん」

「珍しいな、どうしたんだ?」

「訊きたいことがあって」

「そうか。とりあえず、歩きながら聞くよ」


本当はお父さんが家に帰ってくるまで待てばよかったのだけれど、じっとしていられなかった。


嵐くんが『しらとり園』というヒントをくれて、聞いたことがある気がして文化祭の間ずっと考えていて、やっと思い出したのだ。

お父さんが前に、その名前を口にしていたことを。


「お父さん、あのね、しらとり園って知ってる?」


隣を歩くお父さんを見上げながら訊ねると、妙な顔をされてしまった。


「そりゃあ知ってるよ、当たり前だろう」

「どうして知ってるの? お父さん、行ったことあるの? どんな所? なんでもいいから教えて」

「……は? 大丈夫か、美冬。どうしたんだ」


怪訝そうな顔をしていたお父さんが、ひどく心配そうに私を覗きこんでくる。


「しらとり園って、お前がピアノを弾きに行ってた、あの施設のことだろう? お前のほうがよっぽどよく知ってるはずじゃないか」