私は嵐くんの腕を引いて教室を出ると、あまり人の来ない渡り廊下の奥までやって来た。


「――教えて」


嵐くんの両腕をつかみ、懇願する。


「お願い、嵐くん……教えて。分かることだけでいいの。雪夜くんと私のこと……何か、知ってるんでしょ?」


嵐くんは困ったように少し横を向いた。


でも、彼は私たちのことをきっとずっと前から知っていたのだと直感した。


今思えば、嵐くんは時々、不可解な言動をしていた。

それは雪夜くんも同じだったけれど。


だから、私は絶対に引き下がるつもりはない。


「さっきね、雪夜くんの歌とギターを聴いて、分かったの。私はあの歌を知ってた。なんでかな、忘れちゃってたけど……。今でも、頭に靄がかかったみたいに思い出せない。でも、雪夜くんの歌が、どうしようもなく懐かしくて」


この機会を逃したら、ここで諦めたら、私はきっと後悔する。

大切な、大切なものを失ってしまう。


「嵐くん、お願い。どうしても、どうしても知りたいの……お願い、お願い……」


しばらく押し黙っていた嵐くんが、ふうっと息を洩らした。


「……俺は、雪夜に口止めされてるんだ。あいつとの約束だから、それだけは破れない」


足下が崩れていくような絶望感を覚える。

でも、嵐くんは悪戯っぽく笑って、こう続けた。


「雪夜との約束は破れないけど、でも、口止めされてないことなら言える」