ありがとう、と彼らに告げて、私はまた走る。


こんなに学校が広いと感じたのは、教室が遠く感じたのは初めてだった。


生徒や見学者で溢れた廊下をかきわけるようにして走り、やっとのことでクラスにたどり着いた。

教室の中を見渡す。


でも、雪夜くんの姿はなかった。


近くにいた子に訊ねると、「早退したよ」という答えがきて耳を疑った。


「え……早退? なんで?」

「体調が悪いって」


嘘だ、と確信する。


ついさっきまで彼はあんなに生き生きとギターを弾き、歌を歌っていた。

急に具合が悪くなったなんて考えにくい。


ということは、嘘をついてでも学校を離れたかったのだ。

たぶん、私に会わないために。



ねえ、雪夜くん。

そこまでして私から逃げるのはどうして?


私たちは、いつ知り合ったの?

雪夜くんは知ってるんでしょう?


教えて欲しい。

私たちの関係を。

きっと私たちは、私が思うよりもずっと……。


それなのに、どうして私を避けるの?


君は――何を知ってるの?

何を隠してるの?


胸の中で渦巻く思いが苦しい。


追いかけようかとも思ったけれど、きっと無理にすがっても彼は何も話してくれない気がして、私は動けずにいた。


教室の片隅でぼんやりしていると、「美冬」と声をかけられた。

嵐くんが心配そうに私を見ていた。


「……何か……思い出した?」


ぽつりと訊ねられて、彼は何かを知っているのだと確信した。