「ねえねえ、あのボーカルの人、かっこよくない?」


後ろの女の子の一人が声をひそめて言うのが聞こえる。

すると、もう一人が「私もそれ思ってた」と答えた。


雪夜くんは今、すこし俯き加減にギターに目を落とし、音を出さずに軽く弾いてみている。

その動きはとても自然で、そして優雅に見えた。


演奏に合わせて、長めの髪がさらりと揺れる。

バンドメンバーの様子を確かめるようにふい、と首を動かしたときにちょうど照明が当たり、きれいな横顔の輪郭が際立った。


「……やっぱ、かっこいいよ!」

「ほんとだ! なんか、ミステリアスな感じっていうか、オーラある!」

「やばいやばい! ねえ、前行かない?」

「行こう!」


二人は興奮した様子で前のほうへ走って行った。

他の人たちもちらほらと席を立って移動しはじめたので、真ん中よりも後ろにいた観客がどんどん減っていく。


私の周りには人がいなくなって、ステージ前に人だかりがてきていた。


高鳴る鼓動を自覚しながら、私は椅子に座ったまま、まっすぐに前を見つめる。


バンドのみんなの準備が整って、雪夜くんが前を向いた。


同時に、ドラムの馬場くんが四拍子のリズムを打ち始めた。

次に、山内くんのギターと佐々木くんのベースが重なっていく。