ギターの調整を終えた雪夜くんが、ゆっくりと顔を上げた。

まっすぐに前を見る。


私は慌てて顔を伏せ、前に座っていた身体の大きな男子生徒の背後に姿を隠した。


そのとき、後ろに座っていた女子生徒たちの会話が耳に入ってきた。


「あれ? あのボーカルの人、誰?」

「なんかね、山内が言ってたんだけど、高橋くんが怪我しちゃって、代わりに弾くことになったらしいよ」

「そうなんだ。見たことない人だな」

「遠藤くんって言うんだって。ずっと不登校だったらしいよ」

「へえ……」

「でも、スタジオで音合わせしたらギターすごく上手くて、しかもコーラスやってみてもらったら歌も上手かったらしくて」

「まじで?」

「本当はベースの子が歌う予定だったらしいんだけど、あんまり歌は得意じゃなかったみたいで、だから遠藤くんがギターボーカルやることになったって」

「ええー、なんかすごいね」

「でもあの子、けっこうクールっていうか静かなタイプなんだって。だから歌うのすごい嫌がってたらしいけど、山内とベースの子が頼み込んで、やっとオーケーもらったとか言って喜んでた」


私は知らない話ばかりだった。

あの雪夜くんが、こんなにたくさんの人の前で歌うなんて、なんだか想像ができない。


そっと顔を上げて、前の男子の背中からステージを覗き見る。

雪夜くんはいつもの飄々とした様子で、特に緊張しているようでも、変に力が入っているようでもなく、リラックスしているように見えた。