「美冬、雪夜が出てきたよ!」


梨花ちゃんの言葉に、うん、と頷きながらも、私はステージから目が離せない。

ステージの中央に立った雪夜くんから、目が離せない。


心臓が、不自然なくらいにどくどくと鼓動していた。


雪夜くんは肩からギターをかけて、マイクスタンドの前に立った。

スタンドの高さを確かめたあと、軽くしゃがみこんで足下に置いた機材のようなものを調整して、再び立ち上がる。


それから、ギターの弦を左手の指でさっとなぞる。

ひどく愛おしげな触れ方だった。


その仕草を見ていると、さらに私の動悸は早まっていく。


「ねえ、美冬。せっかくだから前に行かない?」


梨花ちゃんが言ったけれど、私は前を見つめたままで小さく首を横に振った。

前に行ったら雪夜くんに気づかれてしまうかもしれないから。


でも、もうひとつの理由のほうが大きかった。

これ以上彼に近づいてしまったら、どうにかなってしまうような気がした。


「梨花ちゃんは、嵐くんと一緒に前に行きなよ。私はここから見てるから」


彼女は嵐くんと顔を見合わせてから、「そう? じゃあ行ってくるね」と私に手を振って二人で前のほうへ駆けていった。