「あ、嵐からライン来た」


梨花ちゃんがスマホを見て呟いた。

嵐くんは学級委員なので、文化祭全体の運営にも関わっていて、今はそちらを手伝いに行っている。


「嵐くん、なんて?」

「雪夜がバンドのリハーサルあるから、こっちに来れない、ごめん、って」

「そんなの、全然大丈夫だよね」

「うん。気にすんな! って返しとく」

「あと、雪夜くんにがんばって、って」

「オッケー」


梨花ちゃんがラインを送り終えて、十字架に色を塗りながら言う。


「さっきパンフレット見たらさ、雪夜たちのバンド、二時から出演みたい」

「へえ……」


平然と絵筆を動かしているつもりだけれど、動揺が顔に出てしまっている気がする。


「……一緒に見に行くでしょ?」


梨花ちゃんが私の顔色を窺うようにかがみこんできた。

どきりとして、「……うーん」と首を傾げる。


「雪夜くんが、見られたくないみたいだし……」

「あんなの、ただの照れ隠しだって! 本当は美冬に見て欲しいんだよ」

「ええ? そうかなあ……」

「そうだよ! 」

「でも……」

「絶対そうだって! 見に行ったら喜ぶよ、雪夜だって」


正直なところ、見てみたい。

雪夜くんのいつもと違う姿が見られると思ったら、見てみたくなってしまう。


でも、本人が嫌がっているのに……という戸惑いもあった。