曖昧に笑ってごまかしていると、雪夜くんがこちらに向かってくるのに気がついて、私たちは口を閉じた。

梨花ちゃんがにやにやしながらこちらを見るので、私は困ってしまって素知らぬふりをする。


雪夜くんは自分の席に戻って椅子に腰かけた。


「雪夜、バンドやるの? もう決定?」


梨花ちゃんが訊ねると、彼は「ああ」と頷く。


「へえー、すごい! 知り合いがライブやるのとか初めてなんだけど。なんか興奮するなあ」

「別にすごくないし……ただギター弾くだけだよ」

「そう、それ! びっくりしたよ、ギター弾けるなんて知らなかったし」

「……そんなん、わざわざ言うほどのことじゃないだろ」


小さく言った雪夜くんの視線が、ちらりと私に向けられる。

目が合って、どきりとした。

ごまかすために口を開く。


「雪夜くん、がんばってね。練習とか大変だろうけど」

「ん」

「本番、見に行くね」


私がそう言った瞬間、雪夜くんが眉をひそめた。

それから彼は、声を落として呟く。


「……来なくていい。来るな」


予想もしなかった答えに驚いて、心臓が凍る。

ショックでなにも言えずにいると、梨花ちゃんが「ちょっと、雪夜ー」と声を上げた。


「なに照れてんのよー、美冬に見られるのが恥ずかしいわけ?」


……照れてる?

そんなふうには聞こえなかったけど。


雪夜くんを見ると、ふいっと顔を背けてしまったので、表情は読めなかった。