「そうなんだ……。高橋くんって、たしかバスケ部だったっけ」

「そうそう。でね、高橋くん、文化祭の有志発表でバンド組んでライブすることになってるらしいんだけど、左手怪我したからギター弾けないんだって」

「え……」


私は視線を彼のほうに向けた。

高橋くんは申し訳なさそうな顔で、バンド仲間らしい男子に謝っている。

左手はギプスと包帯で痛々しい状態になっていた。


「……どうするんだろう」

「タイミングが悪かったよね。辞退するしかないのかなあ……。高橋くんも他の子もかわいそう」


梨花ちゃんがため息をついた。

クラスのみんなも心配そうに彼らを見ている。


しばらくして、高橋くんと一緒にバンドを組んでいるらしい山内くんが、彼の肩を叩いた。


「まあ、今回は諦めるしかないか。来年もあるし、な」


山内くんはからりと笑って言ったけれど、高橋くんの顔はやっぱり暗い。

輪の中にいた嵐くんもそれに気づいたようで、

「高橋、あんま気にすんなよ。仕方ないんだから」

と励ました。


それでも俯いていた高橋くんが、いきなり顔を上げて、教室の中を見回した。


「なあ、誰かさ、ギター弾けるやつ、いない?」


突然の言葉に、クラスのみんながざわめいた。

きょろきょろしながら小声で話し合ったりしているけれど、良い反応をしている子はいない。


「友達が弾けるとかでもいいんだ、誰か知らないか?」

と嵐くんが付け加えたけれど、やっぱり誰も何も言わなかった。