染川さんの顔が険しくなった。


「だから、訊かれたら答えなさいよね」


すると、遠藤くんが冷たい声で続けた。


「……そいつとは、口をききたくない」


どくどくと心臓が暴れる。


どうしてだろう。

どうして私はこんなに彼に嫌がられているんだろう。


染川さんは何か言いたげに口を開いたものの、諦めたように肩をすくめた。


「わっけわかんない。もういい」


話を切り上げるように言った染川さんが、遠藤くんから私に視線をうつした。

それから、慰めるようにぽんぽんと肩を叩いてくれる。


「霧原さん、気にしちゃだめだよ。こいつ、なんか変なやつだ。忘れたほうがいいよ」

「……うん」


うなずきながら、遠藤くんをちらりと見る。

彼もちらりと私を見て、すぐに顔を背けた。


それからぽつりと言う。


「もう俺にはかまうな」


独り言のようだったけれど、私に向けて言ったのだと分かった。


どうして? 私が何か気にさわるようなことを言ってしまったのだろうか。

でも、まだ出会ったばっかりなのに。

わけがわからない。


気をつかわせてはいけないと思って、ショックを隠して染川さんにお礼を言い、私は逃げるように本の世界に没頭した。