だから、繋がれていた感触を思い出す。


初めてのはずなのに、初めての感じがしなかった。

私の手を引いてくれる背中を、私を導いてくれる手を、私の指にからむ指を、知っている気がした。


「――ねえ、雪夜くん」


私が声をかけると、彼はやっぱり眉根を寄せた間の悪そうな表情でこちらを見た。


ねえ、どうしてそんな顔をするの?

どうして私は君と繋いだ手の感覚を――。


「私たち……どこかで……」


無意識にそう呟いたとき、「美冬ー!」と明るい声が私を呼んだ。


はっと我に返り、声のしたほうへ目を向ける。

笑顔で手を振っている梨花ちゃんと、ボールを抱えた嵐くんがこちらに向かってくるところだった。


「よかった、会えて。どこか行ってたの?」


梨花ちゃんがにこにこしながら訊ねてくる。

ちらりと雪夜くんを見て、それから私の横にたって耳打ちをしてきた。


「……うまくいった感じ?」


耳許で言う割には声がけっこう大きくて、雪夜くんにも聞こえてしまったようだった。

雪夜くんは不機嫌そうに「そんなんじゃねえよ」と横を向く。


でも、梨花ちゃんと嵐くんはにやりとして顔を見合わせた。


また勘違いをされているようだ。

でも、今あったことを説明するわけにもいかなくて、私は曖昧な表情を浮かべるだけ。


「いやー、やっぱり夏の海にはキューピッドがいるんだなあ」

「ほんとだねー」


楽しそうに笑い合う嵐くんと梨花ちゃんの後ろを、雪夜くんと私は無言で歩いた。