「美冬が危ないって思ったら、なんか、勝手に身体が動いてた。おかげで、今も海見てるのに、なぜか平気だ」


雪夜くんは穏やかな表情で微笑んで、海のほうを見つめている。

でも、私の心臓は動揺で爆発寸前だった。


雪夜くんの口から、さらりと私の名前が出たから。

さっきは混乱していてあまり気にならなかったけれど、改めて面と向かって名前を言われると、むずがゆい気持ちになる。


しかも、今の言葉、どういう意味?

私が危ないと思ったら勝手に身体が動いた、って。


その意味を深読みしてしまって、頬が熱くなるのを感じる。

きっと雪夜くんにはそんな意図はないのに。


どきどきしながら、きれいな輪郭の横顔を見つめていると、ふいに雪夜くんがこちらを向いた。


「どうした?」


何も答えないわけにはいかず、思いついた言葉をぽろりと口に出した。


「……さっき、初めて、私の名前、呼んでくれたね。今も……」


すると雪夜くんの顔色が変わる。

しまった、というように小さく舌打ちをして、濡れたままの前髪をくしゃりとかきあげた。


何か言われるかな、と思ったけれど、彼は結局何も言わず、おもむろに立ち上がった。


「……そろそろ行こう。あいつらが変に思うといけないから」