気まずくてそっと視線を逸らすと、そこには遥かな水平線が広がっていた。


それを見て、ふと思い出す。

ここに来るまでの間に、海を見た雪夜くんの体調が突然悪くなったこと。


私は振り向いて訊ねる。


「ねえ、雪夜くん。海が怖いんじゃなかったの?」


その瞬間、彼は驚いたように目を見張った。


「……なんで、そんなこと、知ってる?」


呆然としたように訊ね返されて、その驚きように私もぽかんとしてしまう。


「え? 知ってるっていうか……分かったっていうか」

「……?」

「だって、今朝ここに来る途中で、急に具合が悪くなったでしょ? あれ、海に近づいたときだったから、海が怖いっていうか、苦手なのかなって思って」

「ああ……」


なぜかほっとしたように雪夜くんは声を上げ、それから海のほうへ視線を投げた。


「……昔、溺れたことがあって。それ以来、海は苦手だった。海の中に入るのはもちろん、見るのも……」

「そうだったんだ……」


相づちを打ちながら、それなのに私を助けるために飛び込んでくれたんだ、と胸を打たれる。


「……雪夜くん、ありがとう。苦手なのに、海の中まで助けに来てくれて」

「……べつに、いいよ」

「飛び込むの、怖くなかった? 具合は大丈夫?」


雪夜くんの顔を覗きこむと、彼はふっと笑みをこぼした。


「不思議と怖くなかったな。今まではあんなに嫌だったのに……。なんでだろう、夢中だったからかな」


海を見つめながら、雪夜くんはおかしそうに言う。