――怖かった。

すごく、すごく、怖かった。


思い出すだけで身体が震えて吐きそうなくらい、怖かった。


「……ふ……っ」


堪らえるつもりだったのに、嗚咽が洩れてしまった。

両手で口許を覆い、ぎゅっと目を瞑る。


「うう……っ、ふ、」


それでも、口を押さえた指の隙間から情けない声がこぼれてしまう。


「怖かったな。気づくのが遅れて、助けに行くのが遅くなって、ごめんな」


雪夜くんの柔らかい声が耳に入った途端、糸が切れたように涙がぼろぼろと溢れ出した。

そうしたらもう、泣き声もとめられなくなってしまった。


子供みたいに泣きじゃくっていると、突然ばさりと音がして、視界が暗くなった。

さっき脱いだカーディガンを、雪夜くんが頭から被せたのだ。


雪夜くんは何も言わず、カーディガンごと、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

がんばった、よくやった、と褒めてくれている気がした。


それでさらに涙が込み上げてきて、もう、自分ではどうしようもなくなってしまった。


涙が枯れて私が泣き止むまで、雪夜くんは黙って側にいてくれた。


「……ごめん、ありがとう」


やっとのことで涙が止まったとき、私は顔をあげたけれど、なんとなく気恥ずかしくて雪夜くんの顔を見られなかった。

こんなに手放しで泣く姿を家族以外の誰かに見られたのは、きっと初めてだ。