「お前がなかなか帰って来ないから……迷ってんのかと思って、探してたら、なんか騒ぎになってる人だかりがあって……」


雪夜くんは立てた膝に腕を置き、少し俯いて話す。


「そしたら中学生くらいの子たちが泣きじゃくってて、なんか嫌な予感がしたから聞いてみたら、助けてくれた女の子が男三人に連れてかれたって言うから、焦った」


そこまで言って、彼は呆れたように息を吐いた。


「……お前さ、無茶するなよな。あんな大男三人に敵うわけないだろ?」

「……うん」

「あの子たちが、連れてかれた方向、教えてくれたから追いかけられたけど……下手したら……」


私はもう一度、深く頷く。


「うん……ごめん。ありがとう」


目を上げて言うと、雪夜くんも顔を上げた。

濡れた髪の間から、まっすぐに見つめてくる瞳。


その目が、ふっ、と細められた。


「……でも、偉かったな。あの子たち、ちゃんと助けて」


優しげな表情で雪夜くんが言った。

本当に、本当に、優しい顔で。

どんな顔をしているのか、彼は自分で分かっているのだろうか。


「怖かっただろ? あんなやつらに歯向かうなんて。よくできたな。偉いよ、お前は」

「……うん。ありがとう」


にっこりと笑って答えたつもりだったのに、声が震えてしまった。


顔がくしゃりと歪むのを自覚する。

目の奥のほうが熱くなって、視界が滲んだ。