雪夜くんが両手を広げて、空から水の中を落ちてくる。

私に向かって落ちてくる。


私は安堵感に満たされて、もがくのをやめた。


ゆらゆらと水の中を漂いながら、その腕に包まれるのを待つ。


抱きとめられるその瞬間、なぜだか分からないけれど、泣きたくなった。

込み上げるように、泣きたくなった。


これで助かる、と安心したからだろうか。

違う気がする。

でも、理由は分からない。


細いけれど力強い腕に抱き寄せられて、私はその背中に手を回した。


雪夜くんが水をかくと、ぐんっと引っ張られるように身体が浮かび上がった。

私も同じように腕を動かして、水面の向こうの空を目指して泳ぐ。


水を抜け出した瞬間、二人で同時に空気を吸い込んだ。


荒く呼吸を繰り返しながら隣を見ると、雪夜くんも同じように私を見ていた。

濡れそぼった髪が額や頬にはりついている。

そのせいで、いつもは前髪に隠れている目がはっきりと見えた。


降り注ぐ光を受けて、明るい茶色に輝く瞳。

雪夜くんはこんな目をしていたのか、と思った。


「……大丈夫か? 怪我はないか」


心配そうな顔で問われて、私は慌ててうなずく。


「よかった。とりあえず、海から上がろう」

「うん」


一番近いところにある岩に向かって泳ぎ、なんとか陸にあがることができた。

どっと疲れがきてへたりこむ。

雪夜くんも同じようにしゃがみこんだ。