雪夜くんがまっすぐに救いの手を伸ばしてきた。

私も腕を伸ばして、救いを求める手を差し出す。


一瞬、指先が触れ合った。


雪夜くんの指が私を捉えようと開く。

私も同じように動かした。


でも、ほんの一瞬間触れ合っただけで、私たちの指は虚しく離れてしまう。


雪夜くんの手が空をつかむのを見ながら、私は海面に打ちつけられた。


その瞬間に全ての音が戻ってくる。


弾けるような衝撃音。

ごぼごぼと泡立つ音。


一瞬にして全身を海水に包まれる。

波が押し寄せてくる。


思いがけない冷たさに、心臓がぎゅっと縮まった気がした。

反射的に息を止める。


透き通った水の向こうに、水面で真っ白にきらめく光と、真っ青な空。

きれいだな、と場違いなことを思った。


でも、次の瞬間には息が苦しくなってきて、慌てて水をかく。

でも、服を着ているせいか思うように動けず、なかなか浮き上がることができない。


必死に腕を動かしているのに、少しずつ水の底へ沈んでいく。

焦りが生まれた。

泳げないわけではないのに、水につかまってしまって思うようにならない。


息が苦しい、どうしよう。

空気が欲しい。

とにかく呼吸をして、なんでもいいから吸い込みたいという衝動に駆られる。

でも、水しかない。


頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。


もうだめだ、と思った瞬間、水面に雪夜くんが飛び込んできた。

その顔を見た途端に、なぜか私は、もう大丈夫、と確信した。