私のほうに気をとられていた雪夜くんは、今度はよけきれずに、こめかみのあたりに拳を受けてしまった。

頭を押さえてよろりと体勢を崩す。


もう一人の男が拳を降り下ろすのが見えた瞬間、私は声にならない叫びを上げた。


無我夢中でもがいて、それでも私を拘束する腕が外れなくて、何も考えられないままに目の前の腕に爪と歯を立てた。

思い切り噛みついた。


男が叫び声を上げ、腕が外れる。

それを振り払って、私は雪夜くんのほうに足を踏み出した。


その瞬間、


「いってえな、このクソアマ!!」


すぐ耳許で男の怒鳴り声がして、太い腕に身体を薙ぎ払われた。


あまりの衝撃で身体を支えきれなくて、一歩、二歩と後ろによろける。

そして、三歩目が、宙を切った。


そこは岩場の終わりだった。


え、と思った瞬間には、視界から岩場が消えて、青空が飛び込んできた。


身体が宙に浮遊するような感覚が一瞬あって、それから落下する感覚。

血が逆流するような恐怖に襲われて、全身が総毛立った。


奇妙なことに、全てが無音のスローモーションに見える。


ゆっくりと視線を動かすと、私を突き落とした男が、しまった、と焦ったような表情でこちらを見ていた。

あとの二人の男も振り向いて呆然としている。


その三人の間にいた雪夜くんは、大きく目を見開いて、次の瞬間、風を切るような速さで駆け出した。


「美冬!!」


音が消えた世界に、雪夜くんの声だけははっきりと聞こえた。