空気を切り裂くように、まっすぐに届いた声。

私を呼ぶ声。


聞いたことがあるはずの声なのに、なぜか、誰だか分からなかった。


「美冬! どこだ!」


でも、必死に私を呼んでいる。

ごつごつと立ち並ぶ大きな岩の隙間をすりぬけるようにして、よく通る澄んだ声が響いてくる。


その声に名前を呼ばれるのは、初めてだった。


それに耳を澄まし、私はすうっと息を吸い込む。

そして、精いっぱいに叫んだ。


「――雪夜くん!」


こんなに大きな声が出せるんだ、と自分でも驚くくらいの声が出た。

そして、答えてから初めて、私を呼ぶ声は雪夜くんのものだと気づいた。

私は無意識に彼を呼び返していた。


人の気配に気づいて動きを止めて、周囲を窺っていた男たちが、驚いたように私を見下ろして、慌てて手を伸ばしてきた。


「黙れ! 声出すんじゃねえ!」

「マジで痛い目に遭わすぞ、コラ!」


大きな手を押し当てられて、口だけではなく鼻まで塞がれる。

息ができなくなって、苦しくてもがいていると、ふいに顔を覆っていた手が消えた。


反射的に大きく息を吸い込んだら、一気に空気が肺の中に流れ込んできて噎せてしまった。

咳き込みながら視線を送ると、そこには雪夜くんが立っていた。


彼は凍りつきそうなほど冷たい瞳をして、私を押さえつけていた男の襟首をつかんで引き離し、その顔を冷ややかに見下ろしている。