「梨花ちゃん、嵐くん、待って」


頑張って声を張り上げると、二人が同時に振り向いた。


「あの……私、やっぱり上着脱ぐの恥ずかしいから、海には入らないで、こっちで待ってるね」


そう言うと、嵐くんが「恥ずかしいことなんかないのに」と首を傾げる。


「ここにいる人みんな水着なんだし、気にしなくていいよ」

「……うん」


すると梨花ちゃんが、嵐くんの腕をぐいっと引っ張り、何かを耳打ちした。

途端に嵐くんの顔色が変わり、しまった、というように肩をすくめる。

それから彼はこちらを見て、「じゃ、お前らは二人で待ってろよ」と笑った。


ああ、絶対にまた勘違いをされている。

でも、私は何も言えなくて、あいまいに頷いた。


二人が海に入っていく後ろ姿を見つめて、それから私は雪夜くんに視線を向ける。


「……とりあえず、さっきのところに行こうか」


雪夜くんは、ああ、と小さく頷いた。


彼の重い足取りに合わせてゆっくりと歩き、梨花ちゃんたちがシートを広げてくれた場所へと戻る。

二人で並んで腰を下ろすと、雪夜くんはふらりと寝転がって、片腕で顔を隠した。


「大丈夫?」

「……ああ」

「なんか、飲み物とか、いらない?」

「いらない」


雪夜くんは小さく呟き、ふっと息を洩らした。

あまり話しかけないほうがいいかな、と思い、私は口を閉じる。


海のほうを見ると、梨花ちゃんと嵐くんが楽しそうにボールを打ち合っていた。