笑った。

雪夜くんが笑った。

しかも、私に笑いかけてくれた。


どくん、と心臓が跳ねるのを感じた。

そのあと、息苦しいような気持ちになる。


「……大丈夫だって。心配性だな、お前は」


呆れたような声音で、でも、柔らかな表情だった。


「行こう。そろそろあいつからがおかしく思うだろうから」


驚きと動揺で立ちすくんでいる私を横目に、雪夜くんが前へと足を踏み出した。

私は深呼吸をして息を整えてから、後を追った。


海沿いの遊歩道を歩いて、砂浜へと降りる階段を下る。


きらきらと光る水面、打ち寄せる波の音、楽しそうにはしゃぐ海水浴客たち、まばゆい陽射し。

目の前に広がる海の光景に思わず見とれていたら、雪夜くんがずいぶん先へ行ってしまっていた。


慌てて後を追う。

でも、その背中を見ていて、なんとなく引っかかるものがあった。


雪夜くんは海のほうへは目もくれず、じっと足元へ視線を落として黙々と歩いている。


普通、海に来たら、無意識にでも海のほうを見てしまうものじゃないだろうか。

それなのに彼は、頑なに海から目を逸らしているように見える。


「ねえ、雪夜くん」


小さく声をかけると、雪夜くんは海とは反対側の横顔をこちらに見せた。

やっぱり、海を見ないようにしている気がする。


「……海が、怖いの?」