「うそ。平気には見えないよ」

「………」

「ねえ、気分が悪いんでしょ? どこかで休もう」

「……いい」


雪夜くんは小さく首を横に振り、梨花ちゃんたちの走っていったほうへゆっくりと歩き出した。


「雪夜くん! 待って……」

「……大丈夫だから」

「無理しちゃだめだよ、帰ろう」


追いついて、その腕をつかむ。

パーカー越しにも分かるくらい、震えていた。


雪夜くんがゆっくりと振り向く。


「……あいつらに、迷惑かけたくない」


あいつら、というのは梨花ちゃんと嵐くんのことだろう。


「楽しみにしてるのに、今さら帰るなんて言えないだろ」

「……じゃあ、雪夜くんと私だけでも」

「あいつらのことだから、絶対、一緒に帰るって言うよ」


確かにそうだろう。

雪夜くんの具合が悪いから帰る、と言ったら、あの二人はきっとついてくる。


「……本当に、大丈夫だから。一瞬、気持ち悪くなったけど、もう治った」


そう言う雪夜くんの顔は、やっぱりまだ顔色が悪いような気もしたけれど、さっきよりは確かに随分よさそうだった。


「……分かった。じゃあ、無理しないって約束できるなら」

「……ん」

「海に入っちゃだめだよ」

「ああ」

「日陰で休んでてね。約束できる?」


必死に言い聞かせていると、雪夜くんの目が細くなって、口角がふっと上がった。