「やっぱり具合悪かったんだね……無理しなくてよかったのに」


声をかけても、雪夜くんは黙ったままだ。

どうしよう、助けを呼びに行こうか、それとも側についていたほうがいいのか。


迷っているうちに、雪夜くんがゆらりと顔を上げた。

前髪の隙間から、深い黒の瞳が覗く。


「……大丈夫だ」


絞り出すような声は、かすれてひどく小さかった。


「うそ。全然大丈夫そうじゃないよ」

「……大丈夫、って、言ってるだろ」


雪夜くんはやっぱり力ない声で言い、ゆっくりとした動きで一歩を踏み出す。

その瞬間、よろりと身体が傾いた。


「雪夜くん!」


私は慌てて抱き止めようと手を伸ばす。

すると雪夜くんはびくりと肩を震わせて、後ずさった。

その拍子にさらによろめいて、ガードレールに両手をつく。


その目が、海のほうを見つめて、大きく見開かれる。

雪夜くんはぴたりと動きを止めて、色を失くした顔で海を眺めている。

唇が震えているように見えた。


「……あ」


かすかな叫びのような声をあげると、雪夜くんは口許に手を当ててぐっと俯いた。

そのままずるずるとしゃがみこむ。

私も横に座り込んだ。


見ると、雪夜くんはきつく眉を寄せ、海を睨みつけるような表情をしている。

それから呻き声を上げて、吐くような仕草をした。

慌てて背中をさすると、すぐに振り払われてしまう。


「……もう、平気だから」


囁くように言って、雪夜くんは荒い呼吸をしながらよろよろと立ち上がった。