「わあ、きれい」


電車を降りて十分ほど歩くと、建物の隙間から海の青が見えてきて、私は思わず声を上げた。

「海だね、夏だね」と梨花ちゃんが嬉しそうに笑う。


「海とか何年ぶりかなあ」

「俺、三年ぶりくらいかも」

「けっこう近いのに、なかなか来ないもんだよね」


さらに五分くらい歩いたところで、ぱっと視界が開けて、端が見えないほど広々と広がる海が姿を現した。


「うおー、海だ! めっちゃ光ってるじゃん」

「やばい、テンション上がる!」


嵐くんと梨花ちゃんが同時に声を上げ、「行こう!」と駆け出す。


元気だなあ、と思わず笑みが洩れた。

私も走って追いかけようかな、と思い、何気なく後ろの雪夜くんを振り向く。


その瞬間、驚きで足が止まった。


「え? ……雪夜くん?」


呼びかけても、反応はない。

雪夜くんは私の五歩分ほど後ろで、海側のガードレールに片手をついて、項垂れるようにして佇んでいた。


やっぱり具合が悪いんだ、と思って駆け寄る。

顔を覗きこむと、色白の顔が血の気を失って青ざめていた。

薄く開いた唇まで青い。


「雪夜くん、大丈夫?」


腕をつかんで揺するものの、答えはない。


私は振り返り、梨花ちゃんと嵐くんを呼ぼうとした。

でも、二人はすでに声の届かないところまで行ってしまっている。