私の呟きが聞こえたようで、染川さんが「あ、そっか」と私の左隣の机を見た。

それからまた、前のほうに目を向ける。


私も視線を戻して、突然あらわれた男の子を見つめた。


ほっそりと背が高くて、すこし猫背。

肩かけの鞄をだらりと下げて、両手をズボンのポケットに入れ、気だるげに立っている。

顔はこちらのほうに向いているけれど、前髪が長くて目許を覆い隠しているので、表情は見えなかった。


「もしかして、遠藤くん?」


しんと静まり返った教室に、染川さんの声が響いた。


次に三浦くんが、はっと我に返ったような表情で、

「そっか、やっと学校出てきたんだな」

と言って、遠藤くんのもとに駆け寄った。


「席はあっちだよ。窓際の一番うしろ」


三浦くんがにっこりと笑って声をかけ、こちらを指で差した。

どきりとして私は思わず立ち上がる。

遠藤くんの席が見えやすいように、少し体をずらした。


「……どうも」


遠藤くんが小さく呟く。

三浦くんにだけ聞こえるくらいの大きさで言ったのだろうけど、誰もが口を閉ざしているせいか、その声は一番離れたところにいる私にまではっきりと届いた。