「霧原さん、さっきはごめんね」


周りの子たちが去ってから、染川さんが振り向いて、再び私に声をかけてきた。


「なんかうるさくなっちゃって」

「ううん、全然うるさくなんかなかったよ」

「本当? 霧原さんって、いつも静かに本読んでるから、賑やかなの苦手なのかなって思ってたんだけど」


私はふるふると首を横に振る。


「そんなことないよ。むしろ楽しかった」


そう答えると、染川さんがぱっと顔を輝かせた。


「そうなんだ! よかった。じゃあさ……」


彼女がさらに何かを言おうとした、そのとき。

突然、クラスのみんなの話し声がやんだ。


ついさっきまで朝礼前の喧騒につつまれていた教室が、しん、と静まり返る。


私と染川さんは目を見合わせて、それから教室内を見回す。

すると、クラスメイトたちがみんな同じ方向を向いていることに気がついて、私はみんなの視線を追った。


教室の前のほうの入り口。

そこに立っていたのは、見慣れない男子。


「……え? だれ?」


染川さんがぽつりと呟いた。

私は、もしかして、と思う。


「……遠藤、くん?」


気がついたらそう声に出していた。