その瞬間、雪夜くんの左腕にあるそれを、私は見てしまった。

パーカーの下に着ていたTシャツの袖から手首のあたりまでまっすぐに走る、淡い赤色の大きな傷痕を。


驚いて息を呑んだ。

それに気がついたのか、雪夜くんも自分の腕の傷を見る。


その顔が険しかったので、私はすぐにパーカーを押し戻した。


「やっぱり、いらない。私、べつに汚れたままでも気にならないから」

「………」


雪夜くんの静かで深い瞳が私を映している。

その目がかすかに細められた。


「……気にするな。べつにこの傷を隠してたわけじゃない。だから、着てろ」


そう言われても、すぐに納得などできなかった。

だって、こんなに暑いのに学校の制服でも普段着でも長袖を着ていたのは、腕の傷痕を見られたくなかったからにちがいない。


「……本当に、傷のことは気にしてないんだ。男だし、べつに怪我の痕くらい他にもあるし、どうでもいい」

「……でも」

「長袖を着てるのは、見られるのが嫌だから隠してたんじゃなくて」


雪夜くんはそこで言葉を切って、考え込むような表情をしてから、ぽつりと呟いた。


「……お前に、見せたくなかったから」