男の子が涙の滲んだ目で、でも嬉しそうににこにこ笑いながらソフトクリームを手に持ち、「ばいばい」と立ち去っていく後ろ姿を二人で見送る。


まだ鼓動は早かったけれど、それをごまかすように私は雪夜くんを見上げて、「お金、いくらだった?」と訊いた。

雪夜くんが眉を上げて怪訝そうな顔をする。


「ぶつかっちゃったの私だし、払うよ」


そう言って鞄から財布を取り出していると、「いらねえよ、ばか」と雪夜くんが不機嫌そうに言った。


「あのくらいおごるよ、ガキじゃないんだし」

「でも……」

「いらないって言ってるだろ」


雪夜くんが眉根を寄せて私を見下ろした。

それから、背中のほうに視線を動かし、ふうっとため息をついた。


私もつられたように自分の身体に視線を落とす。

白いカットソーの脇腹のあたりに、茶色い染みがくっきりとついていた。


「……ったく」


そう呟いた雪夜くんは突然、パーカーを脱いだ。


「こんなの着るの嫌だろうし、暑いだろうけど、これ、はおってろ」


ぶっきらぼうに言って、脱いだパーカーを私に差し出してくる。


「服、汚れたままで歩くの、嫌だろ?」


雪夜くんは私の顔を見ずに、少し俯きながら言った。


気をつかってくれたんだ、と分かって、また胸の奥が苦しくなる。


「……ありがとう」


私も俯いて答え、差し出されたパーカーを受け取った。