「びいびいうるさいな、男のくせに」


雪夜くんはおかしそうにくくっと喉を鳴らして笑い、「しょうがねえな」と男の子の手を引いて立ち上がった。

そのまま、男の子がやって来たほうへと歩き出す。

私も後を追った。


「新しいのやるから、泣き止め。いつまでも泣いてたら買ってやらないぞ」


雪夜くんは男の子を連れてソフトクリームを売っている店の前に行き、すこし怖い顔で脅すように言った。

すると男の子はぐっと唇を噛み、泣き声をおさえようとする。


それがおかしくて私が噴き出すと、雪夜くんも笑った。


「同じ味でいいか?」

「うん」

「じゃ、ちょっと待ってろ」

「うん……ありがとう」


男の子がお礼を言うと、雪夜くんはにっと笑って、「よくできました」と言った。


その笑顔を見て、私は胸の奥のほうがぎゅうっと苦しくなるのを感じた。

どくどくと心臓が音を立てる。


息苦しくて、はっと息を吐き出した。


雪夜くんの顔から、目が離せない。


じっと見つめていると、雪夜くんがふいにこちらを向いた。

男の子に向けていた優しい表情のままで。


それから首を少し傾げて、「お前も食う?」と訊ねてくる。


驚きすぎて声が出なかった。

だから、首と手を横に振って、いらない、と意思表示をする。


そっか、と呟いてから、雪夜くんは、はっとしたように目を見開き、ばつの悪そうな顔をした。

そのまま俯き加減に前を向き、店の人にソフトクリームを注文し、お金を渡した。