「染川、予習してきてねえの? ダメじゃん。たるんでるな」


三浦くんはにやにやしながら染川さんに言う。


「ちがうよ。今日古典あるって忘れてただけ」

「本当かよ。さぼりじゃねえの?」

「ひっど!」


染川さんが怒った顔をすると、三浦くんはおかしそうに笑ってノートを彼女に返した。


軽やかで楽しそうなやりとりを見て、うらやましくなる。

私は女子と話すのもあまり得意ではないけど、男子となるともう、ほとんど会話ができない。

話題も口調も話のテンポも、なにもかもちがって、どうすればいいのか分からないのだ。


みんな、どうしてこんなに気軽に会話ができるんだろう。

私だけが人付き合いを上手くできずに浮いているようで、自分が嫌になる。


「霧原、いいの?」


自分の考えの中に沈んでいたら、いきなり三浦くんに声をかけられて、私は思わず「えっ」と小さく叫んで顔をあげた。


「こいつにノートなんか貸したら汚されるかもよ? いいの?」


三浦くんは人懐っこい笑顔で話しかけてくる。

染川さんが「汚さないし、ばか!」と彼の背中をばしばし叩いた。