「だから、………って言ってんだろ?」

「だってお前………じゃないか」


二人のやりとりは続く。


雪夜くんの表情はどんどん険しくなっていった。

そして、今にも殴りかかりそうな勢いで嵐くんの腕をつかむ。


「……とにかく、余計なことはするな!」


突然、雪夜くんが声を荒げた。

彼が大声を出すのは聞いたこともなかったので、私と梨花ちゃんは驚いて顔を見合わせた。


喧嘩になってしまうのではないかと、私の中で焦りが生まれる。

止めに入ったほうがいいのか、先生を呼んできたほうがいいのか。

でも、大事になってしまったら二人に悪い。


ぐるぐると考えていると、ふいに雪夜くんが嵐くんから手を離した。

すがるものを失った腕が、ぶらりと宙にたれる。


「もしも……たら、どうするんだよ」


雪夜くんがぽつりと呟いた。


「もし……たら、もう終わりだ……だから、俺は……」


その声は小さいのに、なぜか私の耳にははっきりと聞こえた。

苦しげな、絞り出すような呟き。


どうして雪夜くんはあんなにつらそうなんだろう。

何が雪夜くんを苦しめているんだろう。


ぼんやりと見つめていると、嵐くんが、雪夜くんを励ますようにその肩をぽんぽんと叩いた。


しばらくすると、二人は沈黙したまま向こうへ歩いていった。

私と梨花ちゃんは、ほっとしてその後ろ姿を見送った。


二人はいったい何の話をしていたんだろう。

そんなことを思いながら、私はいつまでも雪夜くんのほっそりとした背中を見つめていた。