いつの間にか、嵐くんが近くに立っていた。


「なんか楽しそうに話してな」

「美冬の恋バナだよ」


梨花ちゃんがにっと笑って言った。

恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。


嵐くんは軽く目を見開いて、「へえ」と私に視線を落とした。


「もしかして、葛西? さっき二人で話してたよな」

「いや、あの……」

「なに、美冬、あいつのこと気になってるの?」


嵐くんは意外にも、からかうような調子ではなく、真剣な声音で訊ねてきた。

そのことに驚きながら、私は「ちがうよ」と首を横に振る。


「ただ世間話してただけ。葛西くんとはあんまり話したことないし……」


そっか、と頷いた嵐くんは、なぜか安堵しているように見えた。

どうしてだろう、と思って顔色を窺っていると、嵐くんは踵を返して、「おーい、雪夜」と言いながらバスのほうに行ってしまった。


「……どうしたんだろう」


ぽつりと呟くと、梨花ちゃんが「うん……」と小さく答えた。

ちらりと横を見ると、梨花ちゃんはまっすぐに嵐くんの背中を追っている。


その表情が、いつもの梨花ちゃんとは違って、私はなんとなく、声をかけられなくなってしまった。