こんなふうに恋愛がらみでからかわれたことなんてない私は、どう返せばいいのか分からず、黙りこむしかない。


「ね、ところで、ちょっと訊きたいんだけど」


梨花ちゃんが声を落としてこそこそと耳打ちしてきた。


「美冬ってさ、今、彼氏とかいる? 今までに誰かと付き合ったことある?」


私はふるふると首を横に振り、「いないし、今までもないよ、もちろん」と答える。


その瞬間、ふと何かが頭の片隅をよぎった。

何かは分からないけれど、何かが引っ掛かる。


なんだったっけ、と考えかけたとき、梨花ちゃんが「じゃあさ」と言葉を続けたので、些細な気がかりはすぐに弾けて消えた。


「もし葛西に告られたら、どうする?」


予想もしなかった質問に、また顔が熱くなる。

そんなことはありえないと分かっているのに、自意識過剰になっているみたいで、自分が情けなくなった。


「ないよ、そんなの、絶対。私なんか……」

「分からないじゃん。ね、葛西のことどう思ってる?」


梨花ちゃんはわくわくしたように訊ねてくる。


「どうって……分からないな。あんまり話したことないし」

「そうなの? 席近いのにね」

「うん、私、人見知りだし」

「そっか。でも、葛西っていいやつだし、美冬が嫌じゃないなら、付き合ってみてもいいかもね」

「そんな、告白されてもないのに……」

「あ、そっか。ごめん、私、気が早くて」

「本当だよ」


二人で顔を見合わせて笑っていると、「なんの話?」と声をかけられた。