胡蝶は手のひらの上の毛虫を両親に見せる。



「この真っ黒な毛むくじゃらの虫が、成長すると、あの色あざやかな蝶になるの。とても不思議ですてきなことよね。

だから私は毛虫を観察するのが好きなのよ。この虫たちがどうやって姿を変えていくのか、考えながら見ていると、とってもわくわくするもの!」



胡蝶の勢いに気圧されて、大納言は「ああ、たしかにそうだなあ」ともごもご答えた。



「みんな、そのことを知っているはずなのに、見て見ぬふりをしてるんだわ。

ね、それって愚かなことだと思わない? 外見に惑わされて、ものごとの本質を見失っているのよ」



目を輝かせて、胡蝶は早口に言葉を続ける。



「みんなが身にまとっている高級な絹は、蚕が幼虫のときに作った繭で出来ているの。

人間たちが大事にしている絹が、蝶になった蚕には不要なものから出来ているなんて、皮肉よね」



胡蝶は再び手のひらの上の毛虫に視線を戻した。



「ほら、お父さま、お母さま、見てみて。毛虫のこの表情! 毛の奥にある目の奥深さ!

なんて思慮深そうなのかしら。蝶に比べて、毛虫のほうがずうっと深遠で神秘的よねえ………。


みんな、毛虫の見た目にだまされて、毛虫の心のありようってものに気がつかないのね。

物事の本質を見極めて行く末を見据えようとしてこそ、誠実な人間というものではないかしら?」