それなのに、胡蝶ときたらーーー。



眉は素のまま、ぼさぼさ生やしたまま。


「だって、眉毛を抜くなんて痛いじゃないの。剃るのは怖いし」



お歯黒も、母親や侍女たちが何度言い聞かせても、絶対につけてくれない。


「歯を黒くするなんて面倒くさいし汚らしいし、鉄漿はくさいし、絶対に嫌だわ」



髪も伸ばさずに、腰のあたりまで伸びたら自分で切ってしまう。


「だって、絡まって嫌になっちゃったのよ。邪魔だし。え? 櫛? そんな手間のかかること、毎朝やってられないわ。時間がもったいないもの」



せめて白粉と口紅くらいは、と懇願してみても、


「人はねえ、ごてごて着飾って取りつくろったりするのは良くないと思うのよ。ありのままの姿がいいに決まってるわ」



………というわけで、取りつく島もないのである。



胡蝶はいつでも、白粉もつけないまま、真っ白な歯を見せて明るく弾けるように笑ってばかりいる。


そんな笑い方をすること自体がはしたないのだが、言ってどうにかなるような娘ではないことが父大納言にはよく分かっていた。




そこに、寺参りに行っていた胡蝶の母・北の方が侍女たちを引き連れて帰ってきた。



「あら、まあっ、毛虫! こんなにたくさん!」



北の方が悲鳴をあげる。



「お母さまったら、そんなに怖がることないのに。この子たちは何もしないわよ」



胡蝶が呆れたように声をかけた。