「清光さまは、どうしてこんなところにいらっしゃるの? 極楽でお会いしましょうと言ったのに」



不思議そうに訊ねる胡蝶に向かって、清光は少し身をかがめ、耳許に囁きかけるようにして小さく言った。



「………一刻も早く虫姫にお会いしたくて、地を這って参りました」


「まあ、虫姫ですって?」



胡蝶がぱあっと目を輝かせる。



「なんてすてきな呼び名なの!」



感動したように言われて、清光はぷっと噴き出した。



「参ったなあ。からかったつもりだったのだが」


「え? どういうこと?」



胡蝶がきょとんとしている。



「いや、お気になさらず」


「変なひとねえ。女装していたり、急に笑ったり」



清光が自分のまとっている着物を見下ろして、小さく笑った。



「この女装には意味があるのですよ。男の姿では忍び込めそうになかったので、下女のふりをしようと考えたのです。そうしたら怪しまれずにお屋敷に入れるでしょう?」



すると、今度は胡蝶がくすくすと笑った。



「まあ、間抜けね。そんなに大きな女はいないわよ。すぐにばれるわ。最初にあなたを見つけた男童も、立蔀のかげに男の人がいる、と言っていたそうよ」



清光は情けない顔で頭をかいた。