そうこうしているうちに、胡蝶が立蔀の向こうで足を止めた。



「もしもし、そこに誰かいるの?」



立蔀ごしに呑気に訊ねてくる声を聞いて、清光は笑みを浮かべて答えた。



「ええ、おりますよ………蛇が一匹、ね」



胡蝶が「まあ、蛇!」と声をあげる。



「あなたがあの細工物の犯人だったのね」



そう言って、立蔀のふちからひょいっと顔を覗かせた。



その瞬間、二人は同時に息を呑んだ。




胡蝶は目をぱちぱちと瞬きながら、立蔀のかげに身を潜めていた背の高い男の姿を見上げる。



(まあ、このひと、どうして女物の着物を着ているの?)



しかし、なぜか女装をしていることを除けば、男は驚くほど見目麗しく、気品のある容姿をしていた。


聡明そうな目が胡蝶をまっすぐに見つめている。



一方、清光は、間近で見る胡蝶の清らかさに驚いていた。



(いやはや、これは………近くで見ると、より美しく、愛らしい。)



ふっくりと紅い唇が薄く開いて、「あなたは」と言う。



「あなたは清光さまですよね?」



清光はゆったりと頷いた。



「よく御存知で」


「お父さまから聞きました」



なるほど、と清光は微笑む。


胡蝶は物怖じしない強い目つきで、少し怪訝そうに清光を見上げていた。