「変な格好って?」



胡蝶は興味をひかれたように大輔の君を見つめ返した。



「そこまで詳しくは聞いておりません、急いでこちらに参りましたから。とにかく姫さま、すぐにお戻りくださいませ」



大輔の君が必死に諭すものの、一度興味をもったものを胡蝶が見過ごせるわけなどない。



「ちょっと見てくるわ」



そう言って走り出してしまった胡蝶の背中に、侍女たちが絶望的な声をあげた。



「ああっ、もうだめだわ!」


「姫さまのお姿が見られてしまう!」


「どうしましょう、どうすれば………」



女たちの混乱など意にも介さず、胡蝶は庭の真ん中をひらひらと駆け、立蔀のもとへと向かった。









「――おっ、こちらへやって来るようだぞ」



清光が目を丸くして、まるで蝶の舞いのように軽やかな足どりで駆け寄ってくる胡蝶を見つめる。


基常は身を硬くした。



「ど、どうしましょう。忍び込んでいたことが大納言どのに知られてしまったら、我々は大変なことに」


「まあ、いいじゃないか。せっかくならば近くで顔を見て、一言くらい話して帰ろう」



清光はけろりと答えた。



「基常どのは先に戻っておいていいぞ。俺は勝手にやるから、ご心配なく」



基常は悩んだものの、清光が「早く、急いで」と急かしたので、とうとう一人で駆け出した。