雑用から戻って庭を横切ろうとしていた一人の男童が、ふと足を止めた。


かすかな叫び声のようなものが聞こえた気がしたのだ。



不審に思って声の聞こえてきたほうに目を向けると、庭の片隅にある立蔀の陰に、人影が見える。


品のよい赤い花柄の着物を頭からすっぽりと被っており、顔はよく見えないが、

背の高さや体格から見て、大人の男のように思われた。


二人で何かを話し込んでいるようだ。


背筋がぴんと伸び、上品な着物の陰から見える横顔はたいそう整っている。



何をしているのだろうかと男童が見ていると、たまたま近くの御簾の中にいた大輔の君という古株の侍女に声をかけられた。



「お前、何を見ているの?」


「あの立蔀のところに、見目の良い、でも変な格好をした人が二人、立っているようなんです」



大輔の君は御簾の向こうでさっと眉根を寄せた。



「なんですって? 庭に? まさか殿方ではないでしょうね?」


「よく見えませんが、男の人のように思います」


「まあ、大変! もしかしたら姫さまが、いつもの虫遊びで、外から見えるようなところにいらっしゃるかもしれないわ」



大輔の君は慌てて胡蝶の居所に向かった。