「賢い毛虫たちねえ。日の当たるところが暑くて苦しくて、必死に影の中に入ろうとしているんだわ」



感嘆したように言う声が聞こえる。


軽やかで涼やかな、可憐な声である。



「ねえねえ、お前たち。ちょっと樹を蹴ってみてちょうだい。ほら、そっちの毛虫がいないあたりを」



男童たちが戸惑いの表情を浮かべながらも言われた通りに幹を蹴ると、枝からばらばらと無数の毛虫が降ってきた。


遠目から見ていたとはいえ、あまりの光景に基常が「ひっ」と小さく叫ぶ。



「ふふふ、まるで毛虫の雨に降られたようね」



落ちかかってくる毛虫を手のひらに受け止め、姫君は嬉しそうに微笑んだ。


清光はあまりのことに唖然としてから、今度は口許を押さえ、笑いをこらえるのに必死になった。



(本当に毛虫が好きなのだな。こんなふうに一つの物事に深く心を注げるというのは並大抵ではない。見事なものだ)



姫君は両手を大きく広げ、仰向いて雨を全身で味わうような仕草をしている。



(あれが毛虫の雨ではなく、桜吹雪であったなら、たいそう絵になる光景だなあ)



清光がそんなことを考えて微笑んでいると、姫君はふいに懐に手を差し入れ、扇を取り出した。


まったく飾り気のない白い扇である。


さっと開かれた扇面に清光が目を凝らすと、漢字の手習いをしたらしく、墨で黒々と染まっていた。



「ねえねえ、けら男、かまきり助、みの太郎。この扇に毛虫をすくってちょうだい。せっかくだから何匹か持って帰りたいわ」