もぞもぞと四方八方に這い出す毛虫たち。


甲高い叫び声をあげながら逃げ惑う侍女たち。



異様な光景だが、このお屋敷では日常茶飯事である。



「まあ、あなたたち、そんなに大声で叫んで走り回って。品がないわよ。はしたないわ」



自分のことは棚にあげて、胡蝶は忠告をする。


しかし、誰ひとり聞いていなかった。


なんとか毛虫から遠ざかろうと必死で、それどころではないのだ。



胡蝶は肩をすくめて、床に視線を落とした。



「ああ、毛虫ちゃん、なんて可愛いの。幸せ……」



まわりをうろつく毛虫たちのこまごまとした動きを見て、胡蝶はうっとりと頬に手を当てた。


しばらくすると、廂をどすどすと歩いてくる足音が聞こえてきた。



「なんの騒ぎだ?」



姿を現したのは、胡蝶の父、時の大納言である。



「ああ、胡蝶よ……またやっているのか」



大納言は盛大なため息を吐き出した。



「まったくお前は、本当に困った娘だ」



胡蝶はにっこりと笑って、



「お父さま、ごきげんよう」



と父にあいさつをした。


御簾ごしに朗らかな声を聞き、大納言は目尻を下げる。


何だかんだで、やはりこの天真爛漫な娘が可愛くて仕方ないのである。