話の成り行きに驚いた侍女たちが、慌てて止めようとしたときには、すでに胡蝶はひらりと庭に飛び降りていた。



「ああっ、姫さま!」


「なんてこと!」


「いけませんわ、すぐにお戻りになってください!」



なんごとなき貴族の成人女性が裸足で庭に降りるなど、前代未聞である。



「もしも誰かに見られたら……」


「どこに人目があるかも分からないのに」


「塀の向こうの往来には、たくさんの殿方がいらっしゃるのですよ!」


「姫さま、どうかお戻りを!」



胡蝶は着物の裾を両手でたくしあげ、くるりと振り返った。



「もう遅いわ、もう降りちゃったもの! ああ、土ってとっても気持ちがいいのね」



胡蝶は素足の裏に感じる地面の感触を楽しむように、ぱたぱたと何度も足踏みをする。


侍女たちは御簾にかじりつくようにして胡蝶を引き戻そうと声をかけるが、庭に降りる勇気のある者はいなかった。



それをいいことに、胡蝶は毛虫の群がる樹のもとへと駆け寄った。



「んまあ、なんてこと、すごいわ! まるで樹が毛虫の衣をまとっているようね。すてきだわ」



胡蝶は睫毛が触れそうなほどに毛虫の群れに顔を近づけ、興奮を隠しきれずに声高に言った。