「うふふ、かわいいわねえ」



夜が明けると、雨はすっかり上がっていた。



胡蝶がうっとりと眺めているのは、竹丸が遣り水からとってきたあめんぼ。


顔や手足を洗うときに使う角盥に水を張り、数匹のあめんぼを浮かべて、泳がせているのだ。



「不思議ねえ、なんで沈まないのかしら? もっとよく観察しなきゃ。うーん、研究のしがいがあるわ」



すると突然、ばたばたばたっと激しい羽音が響いた。

籠に入れていたとんぼが暴れだしたのである。


水面をぴょこぴょこと跳ねるあめんぼを、遠巻きに気味悪そうに見つめていた侍女たちが、とんぼの羽音に驚いてきゃあきゃあと叫びだした。



「んまあ、そんなみっともない大声なんかあげて、はしたない。ねえ、そう思わない? あめんぼさん」


「こわいものはこわいのです! とんぼというものは飛んでいたら優雅ですけど、近くで見たら恐ろしいし、羽音が不気味で………」


「ああ、とんぼさん、外に出たいのね。いま出してあげるわよ」


「きゃああっ、おやめくださいませ、姫さま!」


「いやっ、こっちに来ないで!!」



いつも通りの賑やかな朝である。