「チギリアラバヨキゴクラクニユキアハム マツハレニクシムシノスガタハ」

《契りあらば よき極楽にゆきあはむ まつはれにくし 虫の姿は》



という歌を書きつけ、最後に、



「フクチノソノニ」――《福地の園に》



と書き足した。



歌を得意とする兵衛が、胡蝶の意図に気づいてくすりと笑う。


まわりの侍女たちが首をひねっているので、兵衛は簡単に解説した。



「地面を這って来てでも私のもとに寄り添いたい、ということでしたが、

《ご縁があったら極楽浄土でお会いしましょう。あなたは現世では、人間である私のそばにいるのは難しいでしょう? だって、あなたは蛇の姿をしているのですからね》

《それでは、福地の園――極楽で》

という意味ですわ。ねえ、姫さま」



胡蝶がにっこりと頷いた。



「なかなかうまい返歌じゃない?」


「ええ、よろしいと思います。ですか、これではお断りのお手紙になってしまいますよ? だって、極楽でということは、つまり死後の世界でお会いしましょう、ということじゃありませんか。」


「いいのよ、それで。ご縁があったら、と言っているんだから。あちらがご縁がないと思うのならそれまで、ね」



胡蝶はあっけらかんと言い、年長の男童を呼んで、清光に文を届けるように言って託すと、

いつもの虫遊びに戻った。