若い侍女たちのやりとりを難しい顔で聞いていた伊勢中将が、「とはいえ」と胡蝶に声をかけた。



「お返事をなさらないというのは、やはりよろしくないでしょう。姫さま、なにか返しの歌をお考えくださいませ」



ひとに送る歌など詠んだことのない胡蝶は、「ええっ」と困ったように眉をひそめる。



「返歌、ねえ………この変な歌と贈り物に対して? さて、どうしようかしら」



胡蝶はしばらく悩んでから、手習い用の紙がしまってある飾り箱をあさりはじめた。



「よし、これにしましょう」



選んだのは、ごわごわとかたく、手触りの悪い紙である。


伊勢中将は「まあ、そんな武骨な紙をお使いになるのですか?」と言ったが、

胡蝶は「こんな意地悪なひとには、これで十分よ」と笑った。


それから文机の前に腰をおろし、筆に墨をつける。



「きれいな字で書くようにとお父さまはおっしゃったけれど、私、平仮名は苦手なのよね。あの流れるような曲線がうまく書けないもの。片仮名でいいわよね」



胡蝶は誰にともなくそう言って、勢いよく片仮名で書き始めた。