「噂を流した? なんの話?」



大納言が慌てたように首を横に振る。



「いやいや、こちらの話だよ。気にしないでおくれ」


「ふうん?」


「それよりな、胡蝶。なんにせよ文を頂いたのだから、きちんとお返事をしないと具合が悪いぞ。女房たちとよく話し合って、しっかりとした返歌を考えて、きれいな字で書きつけるようにな」



それだけ言うと、父大納言は逃げるように立ち去っていった。


胡蝶は清光から送られてきた文と作り物の蛇をじっと交互に見つめる。



「地面を這ってでも、というのは、蛇のことを言っていたのね。清光さまというのは、ずいぶん変わった御方なのねえ」



自分のことは棚にあげて呑気に言う胡蝶のかたわらで、伊勢中将が憤慨したように「まったく」と唸る。



「信じられませんわ、女性に対して、いくら偽物とはいえ蛇を贈って、からかおうとなさるなんて! いったいどういう御方なのかしら」



他の侍女たちも同意するように頷いた。



「ほんとうに、たいそうひどいことをなさるのね」


「何を考えていらっしゃるのかしら」


「お噂では、清光さまといえばたいそうな美男子でお話もお上手だとかて、宮中の女房たちにも騒がれているらしいけれど」


「それにしたって、ご冗談が過ぎるわよね」