それは、いかにも高価そうな帯を惜しげもなくくしゃくしゃに丸め、糸や木の枝を使って本物の蛇のように見せかけた偽物だったのだ。


しかもご丁寧に、それらしい動きをするように工夫した細工も施してある。



「まあ、よくできているわねえ」



侍女たちもおそるおそる近づいてきた。



「ま、本当ですわ」


「なんと、まあ」


「まったく気づなかったわ」



みんなが顔をぎりぎりまで寄せて、大納言の手もとを覗きこんだ。


大納言自身も興味深げに、角度を変えたりしつつ眺めている。



「いやはや、少し見ただけでは、蛇にしか見えん」



胡蝶が虫を好むという噂を聞いて、おそらく、

『大納言の姫君は賢ぶって虫を可愛がっているようだ、少しいたずらしてやろう』

とでも思ったのだろうな、と父大納言は推測した。



「それにしても、まあ、よく出来ている。たいそう器用な御方だなあ。いったいどなただ?」



そこで大納言は、近くに放られていた文に気がついた。



「これは懸袋といっしょに届けられたものか?」


「ええ、そうです」


「なるほど。ちょっと見せてもらうよ」